日本の水産業は現在、漁獲量の減少、環境変化、漁業従事者の高齢化・後継者不足、そして消費者の安全志向の高まりなど、さまざまな課題に直面しています。
漁獲量の減少は、船舶などへの設備投資や燃料費の高騰と重なり、さらなる人材不足を招く悪循環を生み出しています。
これらの課題は、水産業の持続的な発展に向けて早急に解決すべき重要な問題です。
こうした状況の中、持続可能な水産物供給の新たな解決策として「陸上養殖」が注目を集めています。
陸上養殖とは?
陸上養殖は、海や川などの自然環境から隔離された陸地の施設で、魚介類や海藻類を人工的に育てる養殖手法です。
ろ過装置や殺菌装置を用いて水質を管理することで、赤潮や台風などの自然災害、外部からの病原体侵入リスクを低減できるのが特徴です。
また、漁業権の制約を受けにくく、新規参入がしやすい点でも注目を集めています。
日本における陸上養殖の現状
2023年4月より「持続的養殖生産確保法」が施行され、陸上養殖事業者には国への届出が義務化されました。これにより、行政による技術指導や支援が進み、届出件数は増加傾向にあります。
2025年1月時点では、ブリ類、マダイ、サケマス類、ヒラメ、トラフグ、チョウザメなど、多様な魚種が陸上養殖の対象となっています。特にサーモンやマダイといった、従来は海面養殖が主流だった高付加価値魚種の陸上養殖が拡大しており、信州サーモンや八海山サーモンといった地域ブランド化・観光資源化の事例も登場しています。
また、温泉水を活用したトラフグ養殖のように、地域資源を生かした先進的な取り組みも進んでいます。
ただし、現在のところ陸上養殖の生産量は国内漁獲量全体の約1%にとどまっており、今後の成長が期待される分野です。
陸上養殖の課題
陸上養殖における最大の課題は、初期投資の大きさであり、新規参入の大きな障壁となっています。
現在は、国の補助金制度や支援制度を活用し、大手通信会社、水産加工業者、水産試験場などが連携して大規模施設の整備が進められています。しかし、持続可能な産業として成長していくためには、個人や中小規模での参入が不可欠です。
そのため、近年では小スペースで始められる低コストの陸上養殖システムを提供する企業も登場しています。
参考URL
- 海の幸不漁に秘策!こんなところで高級魚が!?“広がる陸上養殖”そのメリット、味はいかに? HTB北海道ニュース
- 通信会社が漁業に参入!?「陸上養殖」 新ビジネスの最前線 【ウェークアップ】 読売テレビニュース
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IoTの活用で加速する、陸上養殖とは?
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小規模陸上養殖の事例
株式会社 ARK 「どこでも誰でも水産養殖ができる仕組み」
株式会社ARKは、独自の閉鎖循環式陸上養殖システム(CRAS)を開発・販売し、地域に根ざした小規模養殖事業の普及を目指しています。
同社の主力製品は、駐車場1台分のスペースで設置できるコンパクトな陸上養殖設備と藻類の養殖に特化した設備です。
株式会社シナジーブリーディング 「10坪で始める陸上養殖」
株式会社シナジーブリーディングは、次世代の一次産業を支援する研究開発企業です。
同社の主力製品は、約10坪のスペースで始められる海ぶどう専用の養殖システムで、販売支援や買い取り制度も整っています。
参考URL
- 株式会社ARK どこでも誰でも水産養殖ができる仕組み
- 株式会社シナジーブリーディング 10坪で始める陸上養殖
陸上養殖の運用課題とIoTの可能性
海面養殖には、赤潮や津波などの自然災害による影響を受けやすいという課題があります
これに対して、陸上養殖では自然災害のリスクは軽減されるものの、電力や燃料などのランニングコストが高くつくことや、環境管理の不備によって魚介類が全滅するリスクがあるなど、別の課題が存在します。
こうした課題の解決策として注目されているのが、IoT・AI・ロボティクスなどの先端技術を活用した「スマート養殖」です。これらの技術により、環境のリアルタイム監視や自動制御が可能となり、養殖の安定性と効率性の向上が期待されています。
IoTの活用方法
陸上養殖におけるIoT活用の主な目的は、以下の3点に集約されます。
環境の常時監視
水温センサー、溶存酸素センサー、水位センサーなどを活用し、養殖環境を24時間365日監視します。異常が検知された際には即時に通知が届くため、迅速な対応が可能となり、魚介類の死滅リスクを大幅に低減できます。
設備の自動化と省人化
給餌、水流の制御、ろ過装置の清掃といった作業を自動化することで、省力化が図れると同時に、人手不足への対策にもつながります。
コスト削減とリスク管理
センサーと連携したデータ制御により、電力や水の使用量を最適化し、無駄なコストを削減できます。これにより、経済的な負担を抑えながら、環境変化によるリスクも軽減可能です。
現在では全自動型の高額なIoTシステムも登場していますが、初期投資を抑えつつ人の手と共存できる小規模かつ低コストのIoT活用こそが、現実的かつ効果的な選択肢といえるでしょう。
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まとめ
陸上養殖は、日本の水産業が抱える漁獲量の減少や人手不足といった課題を解決する新たな産業です。特に、小規模・個人規模の参入が拡大すれば、持続可能な形でこの産業は成長できる可能性があります。
その実現には、初期投資を抑えたIoTの導入が重要な鍵を握っています。
株式会社三弘では、人とシステムが共存できるシンプルで低コストなIoTシステムの開発に取り組んでいます。現在、陸上養殖における実証実験も進行中です。ご興味のある方は、ぜひお気軽にご相談ください。