はじめに
XRD(X線回折)は、試料にX線を照射して得られる回折パターンを解析し、結晶構造、結晶相、格子ひずみ、結晶配向などを評価する分析手法です。
金属材料の研究開発で広く利用されていますが、電池材料やセラミックス、半導体材料など幅広い分野でも活用されています。
通常のXRD測定では、無負荷状態における結晶構造を評価します。一方、引張・圧縮試験と組み合わせることで、荷重を加えた状態でXRD測定を実施でき、変形に伴う格子ひずみや結晶相変化をその場(in-situ)で評価できます。
本記事では、XRDと小型引張・圧縮試験機「ISLシリーズ」を組み合わせた評価手法について、測定原理と活用事例を交えながら紹介します。
XRDと引張・圧縮試験機を組み合わせる目的
XRDは結晶構造を評価する有効な手法ですが、試験後に測定を行う場合、変形中の結晶状態を必ずしも反映しているとは限りません。
例えば、
- 荷重除荷後の応力緩和
- 結晶相の逆変態
- 残留ひずみの変化
などが生じる可能性があります。
そのため、試料へ荷重を加えた状態を保持したままXRD測定を行うことで、変形過程で発生する結晶学的変化を評価できます。
XRDと引張・圧縮試験機を組み合わせた試験
小型引張・圧縮試験機「ISLシリーズ」をXRDに搭載
小型引張・圧縮試験機「ISLシリーズ」は、コンパクトな設計のため、さまざまなXRD装置への搭載を検討できます。ただし、XRD装置の試料ステージ寸法、試料位置・高さ、測定ジオメトリ、X線光路との干渉などについて事前確認が必要です。

XRD(X線回折)に小型引張・圧縮試験機を搭載
組み合わせた試験でできること
試験片をISLシリーズへ固定し、設定した荷重または変位条件に従って段階的に負荷を与えます。
各段階において荷重を保持したままXRD測定を実施することで、変形の進行に伴う回折パターンの変化を取得できます。
これにより、
- 格子ひずみの変化
- 結晶構造の変化
- 結晶相の変化
- 結晶配向状態の変化
などを、荷重やひずみの状態と対応付けながら解析できます。
事例
金属の格子ひずみと応力の測定
金属材料は多数の結晶粒から構成されており、それぞれの結晶粒内部では原子が規則正しく配列しています。
外力が加わると結晶格子が変形し、結晶面の間隔(格子面間隔 d)が変化します。
ISLシリーズを用いて引張荷重を加えた状態でXRD測定を行うと、この格子面間隔の変化に伴い、回折ピーク位置が変化します。
例えば、引張方向と回折面法線方向が一致する条件では、弾性変形によって格子面間隔 d が増加し、回折ピークは低角側へ移動します。回折ピーク位置の変化から格子面間隔の変化量を求めることで、格子ひずみを算出できます。
さらに、X線的弾性定数や測定条件を考慮して解析することで、XRD測定領域における応力を評価できます。
このように、
回折ピーク位置の変化 → 格子面間隔 d の変化 → 格子ひずみ ε の算出 → 応力の評価

引張変形に伴う結晶相変化の評価
引張変形によって結晶構造や結晶相が変化する材料では、試験後のXRD測定だけでは変形中の状態を正確に把握できない場合があります。そこで、所定の荷重またはひずみを与えた状態を保持したままXRD測定を行うことで、変形に伴う結晶相の変化をその場(in-situ)で評価できます。
例えば、残留オーステナイト(γ相)を含むTRIP鋼では、引張変形によってγ相からα′マルテンサイトへの相変態が生じることがあります。この場合、各ひずみ段階でXRD測定を行うことで、
- γ相ピークの減少
- α′相ピークの出現
- α′相ピーク強度の増加
を追跡でき、相変態が進行するひずみ領域や、その進行状況を評価できます。
さらに、応力-ひずみ曲線と対応付けることで、力学特性と相変態との関係を解析できます。
小型引張・圧縮試験機「ISLシリーズ」の特徴
- コンパクト設計
- XRDをはじめ、SEM(走査型電子顕微鏡)、ラマン分光装置、デジタルマイクロスコープなど、限られたスペースの試料ステージへの搭載を検討できます。
- In-situ解析
- 荷重下でXRD測定を行うことで、格子ひずみ、結晶構造、結晶相の変化をその場(in-situ)で評価できます。
- 国内設計・製造
- 日本国内で設計・製造しており、導入後の技術サポートにも対応しています。
- 試料形状や評価内容に応じた特注品対応が可能です。
まとめ
XRDと小型引張・圧縮試験機「ISLシリーズ」を組み合わせることで、荷重下における格子ひずみ、応力、結晶構造、結晶相変化をその場で評価できます。これにより、従来の試験後観察では把握が難しかった変形・破壊メカニズムの解明や、材料特性発現の要因解析が可能になります。
金属材料に加え、電池材料、セラミックス、半導体材料など、幅広い分野の研究開発・材料評価への応用が期待されています。
よくある質問
- 所有している既存のXRDに組み合わせたデモは可能ですか?
- お客様がお持ちのXRDとの組み合わせによるデモにも対応しています。XRD装置の仕様や設置条件を確認のうえ、実施可否をご案内します。
- 小型引張・圧縮試験機「ISLシリーズ」の特注対応は可能ですか?
- 可能です。日本国内で設計・製造しており、お客様の用途に応じたカスタマイズに対応しています。ロングストローク仕様や低荷重・高分解能ロードセルなど、各種仕様についてご相談いただけます。
- 特注治具への対応は可能ですか?
- 可能です。3点曲げ治具、4点曲げ治具、ダンベル形試験片用の引張治具など、試験片の形状や試験内容に合わせた特注治具を製作しています。
- Bruker Corporation. Residual Stress with XRD.https://www.youtube.com/watch?v=eYDHb0gfDF8
- Guillaume Geandier,Pierre-Olivier Renault,Philippe Goudeau,Eric Le Bourhis,Baptiste Girault. Study of
elastic behavior of metallic thin films by 2D synchrotron XRD and in situ tensile testing. Materials Research
Society Symposium Proceedings, 2007, 1027, pp.1-6. - 北原 周,棗田浩和 コベルコ科研. 技術本部. X線回折装置を用いた鉄鋼材料のin situ 評価. こべるにくす No.46,OCT.2016
- 公益財団法人あいち産業振興機構、X線による残留応力測定、https://lib.aibsc.jp/tech_square/1089/
