潅水(かんすい:水やり)の重要性と課題
農業において潅水(水やり)は、最も基本的でありながら最も難しい作業の一つです。水が多すぎれば根腐れや病気の原因となり、少なすぎれば生育不良や収量減につながります。特にハウス栽培や養液栽培では、潅水のタイミングと量が作物の品質や収益に直結します。
そこで注目されているのが、「日射比例潅水(にっしゃひれいかんすい)」という技術です。
日射比例潅水の基本
日射比例潅水とは
日射比例潅水は、太陽光の強さ=日射量に応じて潅水量を自動的に調整する技術です。スマート農業の中核技術として注目されており、日射センサー(日射計)を使用してリアルタイムで日射量を測定し、積算日射量が設定値(例:5MJ)に達するたびに潅水を行います。
日射比例潅水の原理
植物は光合成の過程で葉の気孔から水分を蒸散させます。蒸散量は以下の要因に左右されます:
- 日射量(太陽光の強さ)
- 気温
- 湿度
- 風速
- 葉面積
この中でも日射量が最も直接的に蒸散量に影響を与えるため、潅水制御の指標として非常に有効です。
右の図は、一日の日射量のグラフです。
たとえば、「5MJ」ごとに潅水すると設定すると、日中の日射が強い時は潅水頻度が高くなり、朝と晩の潅水頻度は低くなります。

潅水制御の流れ
以下は、日射比例潅水の一般的な制御フローです:

日射量をトリガーにして潅水を行うことで、作物の水分需要に即した潅水が可能になります。
日射比例潅水の導入効果
1. 水資源の節約
必要なときに必要な量だけ潅水するため、過剰な潅水を防ぎ、水資源の節約に寄与します。
2. 作物の品質向上
水分ストレスを軽減し、果実の肥大や糖度の安定化が期待されます。特にトマトやイチゴなどの高付加価値作物において、その効果が顕著です。
3. 労力の削減・自動化
日射センサーと制御装置を組み合わせることで潅水作業を自動化でき、農作業の負担を大幅に軽減します。
日射比例潅水における日射計の導入事例
トヨタネ株式会社の取り組み
「トヨタネ株式会社」は、愛知県豊橋市に本社を構える農業資材の総合企業です。種苗、農業用フィルム、温室施工、養液栽培システムなど幅広い製品を取り扱い、全国の農業生産者に向けて高品質な資材と技術支援を提供しています。
「ひかり当盤」
「ひかり当盤」は、日射量に応じて潅水や換気などの農業設備を自動制御する環境制御機器です。日射センサーで測定された積算日射量または瞬間日射量に基づき、設定値に達すると潅水装置などが自動的に作動します。
< 主な特長 >
1. 簡単設置:100V電源に接続し、制御盤と配線するだけで使用可能です。
2. 2つの制御モード:
用途や作物に応じて柔軟に制御方式を選択できます。
積算日射量制御:例)0.8MJ/㎡ごとに潅水
瞬間日射量制御:例)800W/㎡以上で潅水
3. 天候に応じた潅水回数の自動調整:
晴天時には潅水回数を増やし、曇天・雨天時には潅水回数を減らすことで、無駄のない水管理を実現します。
参考URL
トヨタネ株式会社 :「ひかり当盤」で潅水のやり方 変えてみませんか!?
https://www.toyotane.co.jp/blog/chlorophyll/001892.html
農業用ハウス内環境コントロール!ひかり当盤【トヨタネ】
https://www.youtube.com/watch?v=MfQ8YSlNGXk&t=1s
日射計の選定:三弘 PVSS-03
三弘のPVSS-03日射計は、太陽電池セル(PVセル)を利用した日射計で、太陽光が当たることで光電効果により電流を発生させる仕組みを採用しています。この電流は日射量に比例しており、これを利用して日射量を測定します。
特徴
• 低価格
汎用の太陽電池セルを活用することで、サーモパイル式の日射計に比べて安価に製造でき、導入コストを
抑えられます。
• 応答速度が速い
光に対する応答速度が速く、リアルタイムでの制御に適しています。サーモパイル式に比べて即時性が
求められる用途に最適です。
• 高い信頼性
長年にわたり使用実績のある汎用太陽電池セルを採用しており、安定した性能と耐久性を備えています。
• 安心の日本製
国立大学法人 豊橋技術科学大学の研究も基に開発され、日本国内で製造されています。

豊橋技術科学大学での研究について詳しい情報は、別のサイトをご覧ください。
• スマート農業との親和性
0~1Vの直流電圧を出力することで、Raspberry Pi、Arduino、M5Stackなどの小型マイコンとのスムーズな
連携が可能です。通信機能を備えたこれらの装置と組み合わせることで、容易にIoT化を実現し、個人用途
から大規模システムの構築まで柔軟に対応できます
• アレイ接続
複数機器を直列接続することで、日陰の影響を除外した正確な測定が可能になりました。

複数の日射計を直列接続することで、ビニールハウスの柱などによる一時的な日陰の影響を除外し、より正確な日射量の測定が可能になります。
日陰に設置された日射センサーのデータは自動的に除外され、日向の日射センサーのデータのみが反映されます。
三弘 PVSS-03 日射計公式サイト

まとめ
日射比例潅水は、植物の生理に基づいた合理的な潅水手法であり、スマート農業の実現に不可欠な技術です。日射センサーと制御装置を組み合わせることで、省力化・高品質化・収量安定化を同時に実現できます。
これからの農業において、「水をどのように供給するか」はますます重要なテーマとなるでしょう。
三弘 PVSS-03 販売サイトへ

参考URL
株式会社 エーゼログループ
「農業は水やり10年」「水やり朝夕」の裏側にある潅水理論を整理する
https://morinogakko.jp/kansuiseigyo/